2013年7月10日水曜日

第46回 「秘密の彼女」

甲高い彼女の声が、少し疲れている僕に勇気を与えてくれる。
髪を挙げたうなじに、少し筋肉質の腕に汗が伝い、躰全体がゴムまりのように弾み、そして至福のクライマックスを迎える...


秘密の彼女の話をしようと思う。


彼女は僕より丁度一回り年下で、初めて出会った頃は可愛くて元気いっぱいで、時々ヒステリックになるのには閉口したけど、とてもきらきら輝いていた。
3年前久しぶりに会えて、以前と変わらない笑顔と声で嬉しかったのを覚えている。
お互いの都合で、会えるのはいつも夜中になるのだが、人目を気にしなくてもいいのでそれも良いと思っている。
着飾っているときの彼女もそれはそれで素敵なのだが、着飾った服を脱いでプレイに没頭する時の彼女はまた違った輝きを見せてくれる。
モデルのようなすらりとしたスタイルではなく、グラマラスな肉感的なボデイでもない、女性らしさをとどめた範囲内で、しなやかで美しい筋肉質。素早い動きで攻められるとたまったもんじゃない、振り回されて降参。

人妻であろうと構いはしない。

僕の方も結婚して27年連れ添っている妻がいる。妻も少しは彼女のことを知っている。でも、また会いたい、今度はいつ会えるのだろうか。心配なのは、この前、いたずらっぽい笑顔で、

「今度会えるかどうかどうなるかわからない」

と、言っていたことだ。

気持ちの問題なのか、躰の具合のことだろうか。無理を強いる気は毛頭ないが、また会えることを心待ちにして、僕は僕で、もらった勇気と小さな幸せを心に抱きながら、彼女に負けないように、恥ずかしくないように、前向きに、日々を過ごしていくのだ。



・・・・・・・・・・・



「カモーン!!」

の声と胸元の小さなガッツポーズは、ゲームを決めるようなポイントを取った時のお決まり、こっちも一緒になって

「カモーン!!」

と口走ってしまう。

かつてはポニーテールの上に、まるで決死隊の鉢巻きに見えてしまう白いバンダナがトレードマークだった。
相応のトレーニングを積み上げてツアーに再参戦した時には、驚きながらもうれしかったが、でも無理だろう、やめておけばいいのに、という感想を抱いた。
ところが彼女のすごいところは、着実に成績を積み重ねて、ランキングも上げて、とうとうまた世界の、グランドスラムの大会にも出場するに至ったのだ。わくわくさせてもらうのはこの上ないのだが、2年前には、なんと、いくらピークは過ぎたとはいえ、あのヴィーナス-ウィリアムスを打ち破りそうになった。満足せず手を緩めずますます加速、伸び悩む日本の後輩の若手を尻目に、先日のウィンブルドンでは、1回戦で伸び盛りの10代のパワーヒッターを蹴散らし、2回戦は脂ののった20代前半の正確なストロークプレーヤーを退け、42才で3回戦進出。ランキング1位のセリーナ-ウィリアムスとの対戦は、勝てるわけはないにしても、少しくらいあわてさせることができれば、と思ったが、第1セットは結構できていたのではなかろうか。さすがに渾身の

「カモーン!!」

連発とはいかず敗退したが、対戦後のインタヴューで、

「芝ではなくハードコートで対戦してみたい」と言うところがすごい。セリーナがやめてしまわないうちに再戦させてあげたいと思うとともに、からだと気持ちが続く限り思いっきりテニスを楽しんでいるのだな、と思う。

「来年は、コートに立っているか、解説席に座っているか、わからない」

と、悲壮感のない笑顔で話す、クルム-伊達公子、42才。

伊達さん、綿密な体調管理とトレーニングは大変でしょうけど、やれるだけ頑張ってみて下さい。

来年のウィンブルドンのコートの上のあなたと会えるのを楽しみにしています・・・

テレビで、ですけれど。


副院長 熊谷