2015年3月12日木曜日

第103回 「意識」

脳神経外科の新谷です。

「脳神経外科」というと、脳腫瘍や脳出血の手術など、比較的過激な診療科の印象を持たれる方が多いと思います。何を隠そう私も手術大好き人間の一人ですが、脳神経外科は「脳機能」を扱う科でもあります。

今回は 「意識」 の話をしたいと思います。

生死をさまよった人たちは、「走馬灯体験」なるものをすると言います。
「おぎゃー」と生まれてから、死に際までの全ての記憶が一瞬のうちにフラッシュバックするというものです。完全には証明されていませんが、脳内には全ての記憶がインプットされているようです。

ここで、自宅の部屋を思い浮かべてもらいたいと思います。

ソファがあって、テレビがあって、カーペットが敷かれていて・・・・・全てを思い出して絵を描くことができるでしょうか?ほとんどの人が“NO”だと思います。部屋全体はおろか、壁時計の文字盤すら描けないのではないでしょうか。脳は視覚で捉えたもの全てを認識し、記憶にインプットしているはずですが、慣れ親しんだ自宅ですら完全に意識にあげることは困難です。

ではなぜこのようなことが起きるのか?

RAS(reticular activating system;網様体賦活系)という回路が関係していると言われています。RASとは脳幹の上部(橋、視床、視床下部など)にある、数十の神経核から構成された回路です。これらの神経核から神経伝達物質(アセチルコリン、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなど)が放出されて脳が活発に活動するのです。

これが 「意識」 です。

(ちなみにくも膜下出血の患者さんではこの回路が局所的にダメージを受けるので、薄い脳出血なのに重度の意識障害になります)

目の前に広がった世界の中から、自分が意識に上げたいものだけを取捨選択して意識するのです。

街中を歩いていて、動物が好きな人は隣を走って行ったトイプードルを瞬時に見るし、車が好きな人は真っ赤なフェラーリに目が奪われるでしょう。ジャニーズが好きな人は、遥か彼方の"嵐"の看板が目に入るわけです。(ちなみに私は職業柄、スカルのデザインのTシャツやインテリアがあるとついつい細かい部分まで観察してしまいます。)

年を重ねるごとにその人の「RAS」の機能は凝り固まっていきます。RASは、良くも悪くもその人の意識を支配しますので、時にはRASに背いて物事を見ようとすると(今まで認識しようとしていなかったものを見ようとすると)、新たな世界が広がるかもしれません。



脳神経外科 新谷