2015年4月10日金曜日

第106回 「早春の三冊 Part.2」

あっという間に四巡目ですね。光陰矢のごとし、ですか。

この原稿ではいつも、ついついディープな世界に入りそうになるので、今回はさわやかに(?)「早春の三冊」 part.2 です。
またまた本の話かよ~、と思われるでしょうから、今回はコミック(早い話が漫画ですね)のお話し。
例によって早春にふさわしいさわやかなコミック、などを紹介するはずもなく、素直な性格のボクが選んだ、あまり素直でないコミック三選です。

1)「大阪豆ゴハン」 サラ・イイネス(イネス)作 文庫版全6巻
サラ・イネス(イイネスから改名)さんといっても、フランス人とかアイルランド人、というわけではなく、生粋の日本人女性。どうやらイネス・ドゥ・ラ・フレサンジュという元祖スーパーモデルが好きで、このペンネームになった模様。

このコミックのキーワードは 「大阪弁」 「猫」 「モータースポーツ」 (何のことやらわからないでしょね)などなど…。大阪に住む湯葉さん一家を中心にした日常生活のユル~イ物語。モータースポーツ、というのは主にWRC( World Rally Championship)という世界最高峰のラリー選手権の選手たちの話が欄外にちりばめられ、登場人物自体が(往年の)有名ラリードライバーのパロディーになっています。主人公の「湯葉さん」というのは、ユハ・カンクネンという選手で、愛車も知る人ぞ知るランチア・デルタ…という具合。でもこのコミックの肝は、こてこての大阪弁を操る一風(二、三風?)変わったヒトビトの生活をリアルに描いているところ。このひとのコミックでは、「誰も寝てはならぬ」(全17巻)という傑作もありますが、やはり大阪弁がスゴイ。これらの本になじむと、たとえ一流デパートでの買い物でも「で、ほんまはなんぼになりまんの?」とつい聞いてしまいそう。



2)「バーナード嬢曰く」 施川ユウキ 作 まだ一巻目

学校(高校かな?)の主に図書室を舞台にして、わずか4人の登場人物による本に関する会話がほとんど。名著・名言がたくさん出てくるけど、全く深くも、教訓的でもない「感動の青春コミック」。

主人公の町田さわ子からして、自分のことを「バーナード嬢」と呼べ、と他人に強要するのだが、「え、あれはバーナード嬢でなくて、バーナード・ショーなの?」という人物。この女子を恋する(??)遠藤君、遠藤君を恋する図書委員の長谷川スミカ(小学生の頃からのシャーロキアン)、SFおたくの神林しおり、の4人でほぼすべて、の世界だが、それぞれのキャラクターとその会話がうーーーん、何というか良い!ただそれだけ。



3)「百日紅(さるすべり)」杉浦日向子 上・下巻

江戸時代を描かせたら右に出る者なし、杉浦嬢の快作。

浮世絵師の葛飾北斎とその弟子達が主人公で、まさに爛熟した文化・文政の江戸を描いて見事。北斎(完全にじじいですね)とその娘で、弟子でもあるお栄、いそうろうの善次郎、歌川国直、同居のイヌ・・・達の織りなす江戸の長屋生活が素晴らしくリアル。書き散らかした紙の散乱する画室(住処でもある)の絵一枚見ただけでこの人の非凡な才能があふれているのが分かる。妖艶な娘や粋なにいさん、さまざまな動物から、生き生きとした竜、鬼達、そして幽霊まで、この人の絵はこんなに凄かったのか〜、と感動。続きがもっともっと読みたかった!!惜しいヒトを亡くしたものです。

以上、健全で健康な方々の日々の糧としてふさわしいコミックを3種、ご紹介申し上げました。読んでみて面白くなくてもボクは全く関知しませんのであしからず。ではでは。


病院長 武田