2016年4月20日水曜日

第142回 「真夏のダウンコート」

ただひとり、氷上に立つ。
研ぎ澄まされた鋭い空気の中に音楽が流れると、華やかな別世界に吸い込まれていく。

ちょっと、ポエマーだったでしょうか(赤面)。

氷上の芸術でありながら、カテゴリーはスポーツ。フィギュアスケート。
アマチュア競技人口は未知数、ファン人口3,000万に及ぶプロ野球に比べると、競技人口3~4,000人程度のフィギュアスケートはマイナースポーツと言わざるを得ません。
またその複雑難解なルールは、フィギュアスケートに興味のない人(うちの夫とか)にとって「フィギュアスケートってスポーツなの?」といった、そもそも論すら発動してしまうほど。

もちろんフィギュアスケートはスポーツです。その優美さ、華やかさとはかけ離れた小数点下での得点争いがあります。2014年の世界選手権でショート1位だった町田樹選手を、フリー演技で羽生結弦選手がわずか0.33点差で逆転優勝したことは、フィギュアスケートが0.01点を競うスポーツであることを改めて世に知らしめた出来事だったと記憶しています。
フィギュアスケートにはシングル(男・女)、ペア、アイスダンスの4種目があります。ISUグランプリシリーズには、世界6か国(アメリカ・カナダ・中国・フランス・ロシア・日本)で開催される大会と、その6大会の上位選手が出場するグランプリファイナルがあります。時差に屈することなく勤務調整しながらTV放送やネット中継で(観られるものは)だいたい全種目を観ますが、特に男女シングルが好きです。

ショート、フリーでは構成上必要とされるエレメンツ(要素)が異なります。
ショートでは7つの要素(ジャンプ、スピン、ステップ)から成るプログラムで演技時間は男女とも2分50秒以内となっています。

フリーは、原則的に自由な楽曲で演技を構成しますが、構成内容にはジャンプの回数や同種類のジャンプは2回まで、そのうち1つはコンビネーションにしないといけない、など細かいルールを網羅しつつ演技時間は男子が4分30秒、女子は4分間(いずれも±10秒まで可)となっています。

ジャンプは6種類。サルコウ(S)、トウループ(T)、ループ(Lo)、フリップ(F)、ルッツ(Lz)、アクセル(A)の順に難易度が高く、その回転数ごとに基礎点が上がります。

スピンは基本的な4種類、アップライト(USp)、シット(SSp)、キャメル(CSp)、レイバック(LSp)に加えてポジションの変化により名称を変えていくつも種類があります。

ステップはエッジのさまざまな場所に体重を置き換えながら細かいターンなどを入れながら滑ることで、ソチオリンピック金メダリストの羽生結弦選手がトリプルアクセルの前に使用したこと(というかそれを解説した、佐野稔氏のおかげ)で有名になったカウンターを始め、スリーターン、ロッカー、ブラケット、ループ、ツイヅルがあります。

この程度の大まかな技の見分けができるようになると、フィギュアスケートがスポーツであることが実感でき、より楽しめると思います。

TV放送やネット中継などで観戦するときは、選手ごとに演技構成となるジャンプやスピンの種類をメモしていきます。ジャンプやスピンなどの基礎点やGOE(出来栄え点)を大体覚えておくと、観戦するときに電卓が手放せないという症状がでるようになります。

フィギュアスケートの採点では、5~9名のジャッジが出した得点のうち、最高得点と最低得点を除いた3~7名分の得点の平均点が採用されています。演技後の選手はキスアンドクライでコーチなどと時に談笑、時に慰めてもらったりしながらこの採点を待っています。最近ではフィギュアスケートの採点アプリなるものも登場し便利になりました。

自分で計算した得点は、プロトコルで答え合わせします。これが至福のひととき。
また、プロトコルには選手の息づかいが聞こえてくるような凄まじい結果もあり、その数字の羅列を見て震えることもあります(号泣)。

こんなことをしながら、さまざまな試合を見重ねていくとジャンプやスケーティング、スピン、そのほか技と技のつなぎなどで、見ていて心地いい、目の離せない選手に出会えると思います。

今は春。
フィギュアスケートは7月が年度初めなので競技としてはオフシーズンですが、アイスショーは花盛り。ショーでは得点に縛られず自由に生き生きとフィギュアスケートを楽しむ選手を観ることができます。ただし、外は春~夏でもアイスリンク内は真冬の気温なのでダウンコートは欠かせません。真夏でも防寒対策必須。私のカバンには年中カイロが入っています。

看護主任 宮川(回復期リハビリテーション病棟)