ぼちぼち定年を迎えようとしていますが、私が医師になったばかりのお話をします。
私が医師になったころは、府中に住んでいた母方の祖母がまだ健在でした。
医師になったことを祖母に報告に行くと大喜びで迎えてくれました。
今までの苦労話に花が咲きました。
「ところで、何科の医者になったん?」
と聞くものですから、胸を張って
「整形外科っ!」
と言いました。
とたんに、祖母の顔が笑顔から落胆の表情に変わりました。
「医者になったと聞いたのに、ハリ医者になったんか・・・。」
と嘆くのです。
「いやいや、整形外科医はハリ医者なんかでなく、骨折や捻挫の患者を治したり・・・。」
「やっぱり、ハリ医者じゃ。」
祖母は時々入院を繰り返していたので、腰が痛い、膝が痛いと言っては整形外科で注射をしてもらっていたようです。
「整形外科医は骨折を手術で治したり、歩けなくなった人をリハビリなどで、歩かせれるようにもできる。」
「そんなもん、できるんか。」
と半信半疑でした。
私が医師になって2年あまりで、祖母は肝癌のため亡くなりました。
あれから、30年も経ちました。
私は、整形外科・形成外科・リハビリテーション・リウマチ・手外科の専門医の資格を習得しました。
現在は、年間約300例の手術をこなしています。
骨折だけでなく、腫瘍摘出術や植皮などの再建手術もあります。
結果が同じであれば手術時間を短縮する工夫もしています。
大工道具のような手術道具を使って、トンテンカン、トンテンカンの毎日です。
しかし、高齢の患者さんに
「腰が痛い、膝が痛い」
と言われると、ついつい痛み止めの注射をしている自分に気付きます。
やはり、祖母が言っていたことが正しいのかな・・・?
副院長 小坂